歴史レイヤー構想

現代に生きる古代人
日常性からはとても考えられないほどの太古の歴史,それは絵空事のようで,現代の我々からほど遠い存在のように感じる方も多いと思う。しかし,時に,突然,恐ろしいくらいの古い古い歴史がふと蘇る場面がある。それはヒトの心の奥底に横たわる遺伝子的な響きと考えてもよいかもしれない。
例えばある神社に伝わる神事,その言葉や所作,あるいは周囲の空気に触れた瞬間,間歇泉のようい古代人が思い描いた気持ちが何となく理解できるヒトがいる。いや感じるといった方がよいかもしれない。街に残る巨木,その孤高ともいえる姿に触れた瞬間に,ここで繰り返された庶民の生活が,走馬灯のように蘇るヒトがいる。私たちはその気持ちを抑えきれず,素直に受け入れる面白い機能がある。その強さはヒトにより大きく異なるが,間違いなく誰にでも太古の歴史を心の奥底にしまい込んだまま,気づく事無く日常性を送っている。実は僕たちの古代人は心の奥底で,じっとその出番を待っているのだ。
まず,第1のミッションは現代に生きる「古代人を探せ」
災害を知る遺跡
発掘調査をしていると,時に洪水の跡や地震の痕跡に出会うことがある。濃尾平野での調査では,むしろよく見つけることができる。ただ,洪水や地震の時期が古代まで溯れる場合は稀である。興味深いのはたとえば襲ってきた洪水にいかに対処したかという軌跡が,そこに残されている事です。どうやったらその後に洪水からムラを守ることができるのかという答えがそこにある。つまり古代人の叡智がその遺跡の中に刻まれているのだ。これは凄いです。現代に生きる我々はその古代の叡智をおろそかにしてはいけない。
そしてさらに面白いのは遺跡が存在する場所だ,それはその立地が古代の人々に取って最も心地よい場面であったとまずは考えて良い。さまざまな過去の経緯を踏まえてムラをそこに作り上げてきたのです。鎮守の杜はここにあり,ムラの共同墓地はこの方向のこの場面に位置づける・・といった具合にです。ムラの設計図は,このようにさまざまな過去の尊い歴史を踏まえたものである。したがってそこに遺跡が存在する事,それは地域の歴史そのものであり,ヒトがこの場所ではどこに住まうべきかを教えてくれていると言ってよい。遺跡が存在する所,災害から身を守る手掛かりがある場所。それは素晴らしい場面であると思います。
第2のミッションは,「遺跡を見つけろ」
木曽川は存在しない
私たちが目にする木曽の流れは江戸時代になってから,治水対策の一環として幾つかの支流をまとめ本流に一本化したものであることは周知の事である。したがってそれ以前の犬山扇状地の風景は,まさに扇の要である犬山から木曽の流れが幾筋の河川に分流し,扇状地を網の目状に流れていたはずである。その痕跡が今でも扇状地の上に凹みと高まりとなって残っている。私たちの住んでいる場所を歩いて見ると,微妙なアップダウンが感じられるはずだ。そして扇状地の上は河原石が堆積する場面であり,水は地上から地下に浸透する。そして時に泉となり湧き出る。したがって大雨を除いて,日常的には河の水は今の木曽川のように悠然とした流れを想像することは無理であろう。むしろそこには,美しき湧き水文化が存在したと考えたい。犬山を中心とした古代邇波(にわ)の世界には,こうした風景が広がっていた。その場所に存在する様々な歴史を身近に感じ,意識してその風景を想像するととても楽しくなる。刻々と移り変わる時間の流れに身を任せて,歴史空間を漂うのです。
第3のミッションはそこにある「古代の風景を感じろ」
拡張現実と歴史レイヤー
さて,皆さんが住んでいるその場所,かつてはどうであったのか。
そこは森ですか,沼ですか,あるいは川の中・・。鎌倉時代の集落ですか,江戸時代の街道が通ってますか,古墳が近くにありますか,そして鎮守の杜はまだ健在ですか。これらを知る事が重要です。なぜならば未曾有の災害から身を守る手掛かりがそこにあるからです。歴史が積み重ねてきた幾つかの層,レイヤーを考えてみましょう。なぜそこにお地蔵様が存在するのか,なぜそこに巨木が存在し,守られてきたのか。なぜそこに道標が立ち,水路が掘削されたのか。大きな古墳が造営された意味はなになのか,弥生時代のムラ(遺跡)がどうしてこの街の下に眠っているのか。多くの場合は,それは偶然ではありません。そこには歴史レイヤーが積み重ねられ,やがで「平成」という時代を迎えただけなのです。私たちはそれを知らないだけです。その意味を知り,街の歴史を踏まえた生活空間を作り上げる必要があります。それはどこにもない,ここだけの特徴的な時空間になるのですから,安全で無理の無い街,世界に一つしかない街を取り戻す事ができると思ってます。歴史レイヤーに様々な過去の出来事を語らせる仕組みは,最近では比較的簡単にできてしまいます。そうですインターネットやGPS,通信技術をつかって現実を拡張してやればよいのです。私たちNPO法人は,街の皆さんといっしょに,できれはその仕組みを作っていきたいと考えております。

「史と詩の町から」vol.11-2 より

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